中学校3年生に薦めたい本vol.12 3月

卒業読書・本の森の到達点~日本の文豪八人

日本文学100年の
歴史の中から生まれた名作たち。
それを味わわずして
日本人とはいえないのではないか。
いつからか
そんな思いを持つようになりました。
義務教育段階にある中学生が、
系統的な読書を積み重ねた末に
たどり着くべき文学作品は何か。
私なりの答えがこの8冊です。

その1
「二百年の子供」(大江健三郎)

根元の洞に入り、
見たいもの、
会いたい人を願って眠ると、
時空を越えてそれが叶うという
「千年スダジイ」と呼ばれる木。
真木・あかり・朔の
きょうだい「三人組」は、
そのタイムマシンを使って、
120年前の村に行きたいと願う…。

その2
「砂の女」(安部公房)

砂丘へ昆虫採集に出かけた「男」は、
砂穴の底に埋もれていく一軒家に
幽閉される。
その家の「女」は、
家を守るために
「男」を引き止めておこうとする。
考えつく限りの方法で
「男」は脱出を試みるが、
ことごとく失敗に終わる…。

その3
「沈黙」(遠藤周作)

師の棄教の真偽を確かめるべく
日本へと潜入した司祭ロドリゴ。
案内役キチジローの導きのもと、
ロドリゴは日本の
隠れキリシタン達と出会う。
やがてキチジローの密告により
ロドリゴは囚われの身となる。
そこで彼が見たものは…。

その4
「菜穂子・楡の家」(堀辰雄

三村夫人は娘・菜穂子との関係に
悩んでいたが、久しぶりに会った
おようのすがたから、自分の考えが
変わっていくのを感じる。
もしかしたら不仲な親子関係は
自分だけの思い込みで、
他者から見ると決してそうは
見えないのではと…。

その5
「雪国」(川端康成)

雪深い温泉町で
芸者・駒子と知り合った島村は、
彼女の清廉で一途な生き方に
心を惹かれながらも、
ゆきずりの愛以上のつながりを
持つことができなかった。
そして島村は、
悲しいほど美しい声の娘・葉子にも
興味を持つ…。

その6
「和解」(志賀直哉)

前年に幼くして死んだ娘の
墓参りに上京する「自分」。
麻布の家に電話をかけると、
母は「今日は家に父親がいる」という。
「そうですか。又その内に
出て来ましょう」と答える「自分」。
父親との間に横たわる確執…。

その7
破戒」(島崎藤村)

部落出身の丑松は、
父親から身分を隠せと
堅く戒められていた。
しかし彼は同じ新平民である
猪子の思想に深く傾倒し、
身分を秘して職に就いていることに
苦しみを感じる。
その苦悩が深まったとき、
彼は猪子の壮烈な死に接する…。

その8
「こころ」(夏目漱石)

夏休みに由比ヶ浜へ
海水浴に来ていた「私」は、
そこで「先生」と出会う。
奥様と二人で
静かに暮らす「先生」は、
毎月、雑司ヶ谷にある
友達の墓に墓参りしていた。
そして「先生」は「私」に
何度となく
謎めいた言葉を投げかける…。

一度読んだだけでは十分に
理解できないかも知れません。
でも、それでいいのです。
何年かして読みなおしたとき、
それまでわからなかったことが
わかるようになります。
そしてまた何年かして
読んだときにも、
きっと新しい気付きがあるはずです。
それが「名作」だと思うのです。

売れた本なら
世の中にいくらでもあるでしょう。
でもそれだけでは
「名作」に成り得ません。
読むたびに新たな感動がある。
だから読み継がれる。
それが「名作」なのです。

あなたがもし今15歳で、
その15歳という多感な時期に
この中のどれかを読んだとすれば、
その一冊は、あなたの人生の中で
何度か読み返され、
その度ごとにあなたに
何かを語りかけてくれるはずです。